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患者さまとご家族の声
Family’s VOICE

Interview05
『胃ろう食 保護者の思いに接して』
通所 看護師 坪井美子さん
(以下 坪井とする)
入所 看護師 橋本孝子さん
(以下 橋本とする)

医療的手当てではない食事と、
食事を通じたコミュニケーションが希望の源

  • 橋本私はここで働くようになって丸5年経ちます。それまでは病院の看護師でしたから、こんなにおいしそうな胃ろう食は初めての経験でした。胃ろうから入れる栄養剤でこんな彩りのきれいなものは今まで見たことがありませんでした。

  • 坪井ここの胃ろう食は一品一品盛り付けてあり、口から食べられる人も、胃ろうの人も、同じ形、彩り、味、匂いのメニューなのでみんな一緒に楽しむことができます。 行事の時には胃ろうの人にも料理が運ばれ、親御さんと一緒に食事を楽しむことができるので、誰一人さびしい思いをさせることなくともに楽しい時間を過ごすことができて、看護師としてもうれしいです。

  • 入所 看護師 橋本さん
    ▲橋本さん

    橋本胃ろう食が提供されるようになって、本人と同じぐらい喜んだのはお母さんたちだと思います。今では面会に来てくれたお母さんたちが、率先して胃ろう食を注入してくれるようになりました。お母さんたちはまるでご飯を食べさせるのと同じぐらい、胃ろう食を我が子に注入することを喜んでくれています。お母さんはわが子の名札のついたお盆をテーブルに置くと、その日のメニューを見ながら、「あら、このお肉骨までついて豪華ねえ」「ごちそうだわ」などと話しかけるのです。ひとさじ口元まで持っていき、匂いをかがせるお母さんもいます。

  • 坪井胃ろう食の注入の場合、液体と違って一皿一皿の料理をシリンジで吸い上げ、ゆっくり手で押して注入します。口から食べるのと同じようにゆったりとしたペースで注入するので、途中で心地よくなりうつらうつらとしてしまう子もいます。お母さんたちはたくさんの言葉がけをしながら、注入します。こういった風景を見ていると、機械的に栄養を体に流し込むのではない、食事なんだなあと実感します。「はい、次はスープよ」「デザートいってみる?」など、自宅でもそうやって家族と一緒に食べてきたのでしょうね。それをここで再現しているのですから、子どもたちもそれを思い出してリラックスして食事ができるのですね。

  • 通所 看護師 坪井さん
    ▲坪井さん

    橋本見た目も美しく、厨房の方たちがとても心を込めて食事を作ってくださっていることがよく分かります。注入で余った胃ろう食は、お母さんがきれいに食べてくれるんです。自分も試食したことがあるのですがとてもおいしくて、お母さんたちの気持ちがわかります。

    坪井ただ、シリンジによる毎回の注入は手に負担がかかり、介護者が腱鞘炎になる心配があります。力がそれほどいらずに胃ろう食を入れることのできる胃瘻チューブ等の開発を願っています。

  • 橋本大変なら機械で注入すればいいだろうというかもしれませんが、シリンジで一皿ずつ注入することで、手の感覚を通じて相手のおなかの具合を感じ取ったり、会話をすることでコミュニケーションを取る機会になるため、続けていきたいと思っています。

  • 坪井ここでの活動の一つにクッキング教室がありますが、胃ろうの子も、自分たちが作ったクッキーを胃から食べています。とても嬉しそうです。口から食べなくても、匂いや味は感じていると思います。好きなものは全身で催促し、嫌いなものだと表情が険しくなりますから。そんなことを目の当たりにして、私自身新しい発見です。

  • 橋本先日みんなで動物園に行きましたが、みんなで一緒に胃ろう食の「お弁当」を注入しました。そういうこともできるということを、もっと広く伝えていきたいです。私たち施設看護師の仕事は3交代制で夜勤もありますが、仕事の内容は病院看護師とは少し違っています。入所している子が成長していく姿、反応がどんどん良くなっていく様子や、お母さんたちの頑張っている姿をみることができるので、やりがいを感じています。

通所 看護師 坪井さんと入所 看護師 橋本さん 通所 看護師 坪井さんと入所 看護師 橋本さん
▲橋本さんと坪井さん

浅野先生のコメント

浅野 一恵 先生

ここにいる人たちは、比較的重度で、嫌だとか苦しいなどと訴えることはできないのですが、それでも食事の時の表情の変化には目を見張るものがあり、皆活き活きしています。カレーの匂いを嗅いで、口をモグモグさせる子もいます。胃ろうにしたら希望がなくなるわけではありません。口を通らないだけで、匂いも見た目も楽しめるし、自分の体で栄養を消化し、必要なものを吸収し、いらないものを体の外に排泄することを続けていけるのです。そういうことをもっと知ってほしいですね。

今まで医薬品の栄養剤しか入れてこなかった場合は、食事というよりも医療的な治療と考えてしまいますから、他の食物を入れてはいけないのではないかと考えるお母さんもいます。そういう方には、例えば、きな粉を溶いて入れてあげてみたらとか、野菜ジュースならいいのではなどとアドバイスをしています。栄養剤だけを流し込むのと違って、「どう?」「おいしい?」と、子どもの顔を覗き込み、声をかけてあげられます。はじめは不安そうなお母さんも、子どもの変化していく様子をみると、自信が出てくるのだと思います。匂いやあたたかい、冷たいという感覚など、味気ない栄養剤との違いがわかるはずです。