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患者さまとご家族の声
Family’s VOICE

Interview06
『胃ろう食を支える裏方たち』
調理部主任 鈴木崇之さん
(以下 鈴木とする)
管理栄養士 府川恭子さん
(以下 府川とする)

みんなと同じ食事を
当たり前のように届けてあげたい

  • 浅野嚥下困難な方への嚥下食から胃ろう食まで、施設利用者全員の食事の献立を考えて、料理を作っているのが管理栄養士さんと5人の調理師さんです。ここの調理師さんたちは、三ツ星レストランに負けないくらい味や見た目にこだわって、ここで暮らす方たちのために毎日おいしい料理を作ってくれています。お楽しみ会やクリスマス会のフルコース、お正月のおせちなども、調理師さんと栄養士さんが話し合って、楽しいメニューを提供してくれます。

  • 調理部主任 鈴木崇之さん
    ▲鈴木さん

    鈴木料理を食べる方がどんな方であれ、私にとっては何も変わらず、一人一人がお客さまなのです。レストランで食事をする人も、嚥下食を食べる人も、胃ろうから食べる人も、調理師にとっては変わりがありません。食べる人が本当に求めている料理を、こだわって作りたいと思っています。
    胃ろうから食事を取る人にとっては、その料理が栄養豊富であり、かつ消化しやすく逆流しにくいほどよい粘性が必要です。どうしたらそのような料理になるか、医師や栄養士と相談しながら作っています。 しかし指示に従って調理するだけでなく、どうしたら本人やご家族に喜んでもらえるかを、調理師としても責任を持って考えることが大切だと思っています。

  • 管理栄養士 府川恭子さん
    ▲府川さん

    府川カロリーや栄養価がしっかり取れることが必要ですが、油分が多すぎて胃にもたれやすいことなどがあっても困りますし、栄養素を詰め込みすぎて不味いのもどうかと思います。十分な栄養価が摂取でき、かつ体に負担が少なく、何よりもご本人たちに喜んでもらえる食事作りを目指さなくてはなりません。食材の組み合わせを工夫したり、1日トータルで栄養が充足されるような幅を持った栄養計算をしたりして、栄養を取るためだけに計算数値だけを追わないように心がけています。

  • 鈴木切り方、火の通し方、ミキサーの回し方なども見直し、栄養が無駄にならないような調理方法を、調理師全体で共有できるようにしています。 施設には胃ろう食を数口味見してから、胃ろうから入れる人もたくさんいるので、味や見た目も大切にして料理しています。
    食べてもらう人が本当に喜ぶものを作りたいので、私は必ず実際に胃ろう食を召し上がっている姿を見に行くようにしています。介護者が注入している様子やご本人がどういう表情で食べているのか、自分自身で確かめています。

  • 府川介護者や親御さんが料理を見て「おいしそう!」と歓声を上げて喜んでくれる姿は、周りを明るくし、ご本人さんたちもとてもうれしそうですね。

  • 定食
    ▲下ごしらえに4日かけた渾身の料理

    浅野年に7~8回くらい開いているお母さんたちのための料理教室も、栄養士だけでなく調理師も講師陣に加わってくれています。メニューや作り方について、お母さんたちの日々の疑問に具体的に答えてくれるのでとても好評です。例えば、水の代わりに豆乳を使うと栄養価があがるとか、鶏肉と大根を一緒にミキサーにかけると回しやすいとか、小さな疑問にも答えてくれます。缶詰やレトルト食品、グラノーラを使ったレシピも教えたところ、大人気でした。料理教室で学んだことをお母さんたちはすぐに家で実践し、どんどん応用していきます。そして良いものであれば、ほかの病院や施設の看護師さんや仲間たちにしっかり伝えてくださいます。お母さんたちのものすごいパワーにいつも圧倒されます。

保護者と先生たちの対談風景
▲保護者と先生たちの対談風景

浅野先生のコメント

浅野 一恵 先生

栄養士さんも調理師さんも、入所者の好きな食べ物を聞いて回ってくれています。それを献立に生かしてくれています。こうやってこだわる人がいないと、何も変わりません。栄養は取れるのだから市販の栄養剤でいいやと諦めてしまえば、そこからは何も生まれません。胃ろうからの食事も、みんなと同じものを出すことによって、どんな子の食事も大事にしようという発想になるのです。看護師も、親御さんも、このおいしそうな食事はこの子のために作られたものだと思えば、その子への尊重につながる、大事な食事を大切に扱い、丁寧に注入してあげるからその子のことも大事に思えるのです。
この子は胃ろうにしたから食べられないのは仕方がない、そういう風に思ってほしくないと思います。どんなものでも加工してくれる人がいて、大切に注入してくれる人がいて、みんなで助け合って作り出すことができているのです。熱意とスキルを持った人たちに支えられて、ここの取り組みが形になっています。
胃ろうに納得されていない親御さんや胃ろうにすることを拒む人もいますが、胃ろうにしても食事はできるんだということがわかれば、少しは安心されるのでしょう。胃ろう造設に罪悪感を感じていた家族が、胃ろう食が始まって面会に来れるようになったこともありました。どんな障がいの方にも、当たり前のように食事を届けてあげたいと願っています。